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疾患の解説

犬の会陰ヘルニア手術の成功率は?難しい手術のリスク・再発率・予後を獣医師が解説

「排便のたびに何度もいきむ」「肛門の横が膨らんできた」といった症状があり、会陰ヘルニアと診断されると手術が必要なのか、成功率はどのくらいなのか不安に感じる飼い主様は多いと思います。
結論からお伝えすると、犬の会陰ヘルニアは状態に合った術式を選択し、術後管理まで適切に行うことで改善が期待できる病気です。しかし、すべての犬に共通する「成功率○%」という数字はありません。病変の大きさや左右の発生、膀胱・前立腺などの脱出、筋肉の萎縮、過去の手術歴、併存疾患によって難易度と予後が変わるためです。
この記事では、会陰ヘルニアの手術成績をどのように考えるべきか、再発や合併症のリスク、術後の経過について詳しく解説します。

犬の会陰ヘルニアとは

会陰ヘルニアは肛門周囲で骨盤内の臓器を支える筋肉群が弱くなり、その隙間から直腸、脂肪、前立腺、膀胱などが押し出される病気です。中高齢の未去勢雄に多くみられます。
代表的な症状は次のとおりです。

・排便時に長くいきむ
・便が細い、少量ずつしか出ない
・便秘を繰り返す
・肛門の片側または両側が膨らむ
・膨らみが排便後に小さくなる
・排尿しにくい、尿が出ない
・元気や食欲が低下する

直腸が曲がったり袋状に広がったりすると、便がたまりやすくなります。そのため便を軟らかくする薬や食事療法で一時的に排便しやすくなっても、筋肉に生じた隙間そのものは元に戻りません。根本的な治療は、基本的に手術です。

会陰ヘルニア手術の「成功」とは

会陰ヘルニアでは、成功を一つの数字だけで判断できません。手術成績を考える際は、少なくとも次の点を分けて確認する必要があります。

  1. 手術を安全に終えられるか
  2. 排便困難が改善するか
  3. 大きな合併症なく回復できるか
  4. 長期的に再発しないか
  5. 生活の質を保てるか

たとえばヘルニアが再発していなくても、手術前から直腸が大きく拡張して動きが低下している場合は、便秘が残ることがあります。反対に、小さな膨らみが再び生じても、排便に支障がなく生活の質が保たれる場合もあります。「再発率」だけでは手術の価値をすべて表せないのです。

手術の成功率・再発率はどのくらい?

研究によって対象となる犬の状態や術式、追跡期間が異なるため、数字には幅があります。

2024年に報告された66頭の雄犬を対象とした前向き研究では、術後12か月の再発率は、内閉鎖筋を利用した術式で8.8%、大腿筋膜を利用した術式で10.3%でした。排便症状も手術後に有意に改善し、その状態が追跡期間中維持されています。

一方、一般的な内閉鎖筋転位術については、過去の研究をまとめると再発率0~27.4%と報告されています。米国獣医外科学会の飼い主様向け資料では、さまざまな術式を含めて10~50%という幅も示されています。

したがって、「手術をすれば90%以上必ず成功する」「再発率は一律10%」とは言い切れません。

比較的新しい研究では良好な成績が示されていますが、それは適切な症例選択、術式、執刀経験、周術期管理を含んだ結果です。

手術の難易度を左右する要因

1.膀胱や前立腺が入り込んでいる

膀胱がヘルニア内に反転・脱出すると、尿道が曲がって尿が出なくなることがあります。排尿できない状態は腎機能障害や電解質異常につながる緊急事態です。まず膀胱を元の位置へ戻して全身状態を安定させ、その後に修復手術を行うことがあります。

2.両側性または大きなヘルニアである

見た目は片側だけでも、反対側の筋肉が弱くなっていることがあります。両側に大きな欠損がある場合は、片側だけの症例より手術計画が複雑になります。状態によっては一度に両側を修復する方法や、手術を分ける方法が検討されます。

3.筋肉の萎縮が強い、再発手術である

通常は周囲の筋肉を移動させて隙間を閉じます。しかし筋肉が薄い症例や、過去の手術で正常な構造が変化している症例では、十分な強度を得にくくなります。その場合は、半腱様筋、大腿筋膜、浅臀筋、メッシュなどを使う術式を検討します。

4.直腸の変形や便秘が長く続いている

直腸が袋状に拡張していると、ヘルニアを修復しても排便機能がすぐには正常化しないことがあります。手術前後に便を取り除く処置や、便を軟らかく保つ治療が必要です。

5.高齢や持病による麻酔リスクがある

会陰ヘルニアは中高齢犬に多く、心臓病、腎臓病、内分泌疾患などが併存することがあります。年齢だけで麻酔の可否を決めるのではなく、血液検査、胸部画像検査、心臓検査などで全身状態を評価します。

主な手術方法

標準的には、骨盤周囲の内閉鎖筋を移動させて欠損部をふさぐ「内閉鎖筋転位術」が多く用いられます。欠損の位置や大きさによって、ほかの筋肉、自分の筋膜、人工メッシュなどを組み合わせます。

直腸や膀胱が大きく移動している症例では、開腹して結腸や膀胱を腹壁に固定する手術を併用することがあります。未去勢雄では、前立腺の縮小やホルモンの影響を考慮して去勢手術を同時に行うことが一般的です。ただし、去勢と再発の関係については研究間で結果が一致しておらず、去勢だけでヘルニアが治るわけではありません。前立腺疾患の有無なども踏まえて判断します。

起こり得る合併症

会陰部には直腸、神経、血管、尿路が近接しているため、慎重な操作が必要です。主な合併症には次のものがあります。

  • 傷の腫れ、内出血、感染、傷が開く
  • 排便時の痛み、便秘、しぶり
  • 一時的または持続的な便失禁
  • 排尿障害、尿失禁
  • 坐骨神経の刺激や損傷による痛み、後肢の異常
  • ヘルニアの再発、反対側での発症

排便時の軽いいきみや腫れは、術後しばらくみられることがあります。多くは数日から数週間で改善しますが、強い痛み、急な後肢のふらつき、排尿できない、元気が著しく低下したといった場合は、すぐに病院へ連絡してください。

術後の回復と再発予防

合併症のない症例では、創部が落ち着くまでの目安は約2週間です。ただし、排便機能や筋力の回復にはさらに時間がかかることがあります。

術後は、鎮痛薬や必要に応じた抗菌薬に加え、便を軟らかくする薬や食事管理を行います。硬い便を強くいきんで出すと、修復部に負担がかかります。処方された薬を自己判断で中断せず、便の硬さと回数を記録してください。

また、エリザベスカラーで舐め壊しを防ぎ、散歩は短時間のリード歩行に制限します。激しい運動、ジャンプ、滑る床での動きは獣医師の許可が出るまで控えます。慢性的な咳、前立腺疾患、下痢や便秘など、腹圧やいきみを増やす原因の管理も再発予防に重要です。

手術を急いだほうがよい症状

次の症状がある場合は、予約日を待たずに動物病院へ連絡してください。

  • 何度も排尿姿勢をとるのに尿が出ない
  • お腹が張る、嘔吐する、ぐったりしている
  • 強くいきみ続けても便が出ない
  • 肛門横の腫れが急に大きくなり、硬く痛がる
  • 腫れた部分の色が赤紫色や黒っぽく変化した

特に尿が出ない場合は、膀胱がヘルニア内に入り込んでいる可能性があります。時間がたつほど全身状態が悪化し、緊急処置や麻酔のリスクも高くなるため、早急な受診が必要です。

手術前に確認しておきたいこと

手術を検討する際は、次の点を獣医師に確認すると見通しを整理しやすくなります。

  • 片側性か両側性か
  • ヘルニア内に何が入り込んでいるか
  • 直腸の拡張や変形があるか
  • 予定している術式と、その術式を選ぶ理由
  • 去勢や腹部での臓器固定を併用するか
  • その犬で特に注意すべき麻酔・手術リスク
  • 入院期間、術後の食事・投薬・運動制限
  • 再発した場合の治療選択肢

「成功率は何%ですか」と尋ねるだけでなく、「この子の場合、排便が楽になる見込みはどの程度か」「再発リスクを高める要因があるか」と確認することが重要です。

まとめ

犬の会陰ヘルニア手術は、適切な手術によって排便困難の改善と良好な生活の質が期待できます。近年の前向き研究では術後1年の再発率が約9~10%と報告されていますが、実際の成績は病変の重症度、術式、臓器の脱出、筋肉の状態、過去の手術歴などで変わります。

排便困難が続くと直腸の変形が進み、膀胱が入り込むと緊急状態になることもあります。症状を薬だけで長期間しのぐのではなく、全身状態が安定しているうちに手術の適期を相談しましょう。

品川WAFどうぶつ病院では、診察と画像検査をもとにヘルニアの状態と全身のリスクを評価し、それぞれの犬に適した治療計画をご提案します。肛門周囲の膨らみや排便のしづらさに気づいた場合は、早めにご相談ください。尿が出ない、嘔吐やぐったりした様子がある場合は、緊急性があるため事前にお電話のうえご来院ください。