疾患の解説
犬の心臓病・僧帽弁閉鎖不全症のよくある症状・治療
以下のような症状があれば、心臓病外来を受診されることをオススメします。
なかなか治らない咳がでる
呼吸困難を起こす
安静時の呼吸数が1分間に30回を越える
散歩中すぐバテて疲れる、あまり運動しない
最近少し元気がなく、性格が変わった気がする
失神を起こす
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僧帽弁閉鎖不全症の原因
僧帽弁は左心房と左心室の間に存在する弁で、血液の流れをコントロールする重要な役割を果たしています。
歯周病などの様々な原因によって、僧帽弁が分厚くなり変性することで、弁の閉鎖不全が起こります。閉鎖不全が起こると、左心室から左心房へ血液が逆流し始めます。これを僧帽弁逆流とよび、心雑音ではこの音を聴いています。
僧帽弁逆流によって左心房側へ多量の血液が溜まっていき、心拡大が始まります。
初期段階では心臓の代償機能で補うことができますが、心拡大がひどくなり、代償機能ではどうしようもできない状態になると、肺へ大きな負荷がかかり、肺水腫を引き起こします。
好発犬種
僧帽弁閉鎖不全症は8歳以上の老犬で発症します。
好発犬種は、キャバリア、プードル、シーズー、マルチーズ、チワワ、コッカー・スパニエル、ミニチュア・シュナウザー、ダックスフンド、ポメラニアンなどの小型犬で好発します。
僧帽弁閉鎖不全症の症状
僧帽弁閉鎖不全症は初期症状がなく、重度になるまで症状がでないため飼い主様が早期発見する事は非常に困難です。
また症状があったとしても、最近少し散歩中にバテやすくなったり、疲れやすくなるというくらいなので、高齢であることを理由にしてしまいがちですが、”実は心臓病だった”ということはよくある話なのです。
僧帽弁閉鎖不全症で早期発見できたケースのほとんどが、偶発的に一般健診で心雑音が聴診される事がきっかけです。
そのため、元気そうに見えても、実は心臓病が進んでおり心雑音が聞こえるという事はよくある話です。
心雑音は多くの場合、心臓病の症状が発症する前に聴診されるものですので、早期発見するためには非常に重要です。
僧帽弁閉鎖不全症の一般的な症状としては
- 咳
- 肺水腫による呼吸困難
- 腹水、浮腫
- チアノーゼ
- 失神
- 疲れやすい
- 食欲不振、痩せる
- 下痢
- 発熱
初期症状はほとんど起こりませんが、散歩中にバテやすくなったり、寝る時間が増えたりします。
症状が進行してくると、なかなか治らない慢性的な咳が出るようになったり、興奮した際に舌が紫になるチアノーゼを引き起こすようになります。
チアノーゼは血中酸素濃度が低下している状態ですので、危険な状態であり、失神を起こしてしまう事もあります。
末期になると、お腹に腹水が溜まってしまったり、肺に水が溜まる肺水腫を発症してしまい、呼吸困難を引き起こして亡くなってしまいます。
僧帽弁閉鎖不全症の治療・ステージ分類
僧帽弁閉鎖不全症のステージ分類・重症度は超音波(エコー)検査やレントゲン検査などの画像検査によって決められており、そのステージ分類に従って治療方針を決定します。
基本的に投薬を開始するのはステージB2以降の心拡大が認められる段階になってからです。
ステージA-心臓病を発症するリスクの高い犬(キャバリア)投薬はステージAでは行いません。
ステージB1 – 心雑音が聞こえるが、心拡大や心不全の徴候はない。投薬はステージB1では行いません。
ステージB2 – 心雑音が聞こえ、心拡大が認められる状態です。ただし、明らかな心不全の兆候はありません。
この段階で薬物治療を開始する必要があります。
使用する薬物は、ベトメディン(ピモベンダン)と呼ばれる強心薬です。
ステージC – 心臓病が悪化し、心不全の徴候が明らかになります(例:咳、無気力、失神)。特に肺水腫を引き起こしている場合には命に関わります。ステージC では、ステージB2よりも多くの種類の薬物投与が必要となります。例えば、ラシックスなどの利尿剤です。
ステージD – ベトメディンや利尿剤などといった治療が奏功しない末期の心臓病です。重度の心不全の徴候があり、非常に危険な状態です。
ステージB2までに僧帽弁閉鎖不全症を発見することが理想です。
僧帽弁閉鎖不全症でよく使う薬
ベトメディン
ベトメディンは、心臓の筋肉に作用し、心臓の収縮力を高めるとともに、強力な血管拡張作用があります。いわゆる強心薬です。
ACE阻害薬
ACE阻害薬は血管拡張薬です。血管を広げて血圧を下げる効果があります。ただし血圧を下げる効果は弱いです。
アムロジピン
血管を収縮させるカルシウムの働きを阻害するCa拮抗薬であり、血管収縮を防ぐことで血圧の上昇を防ぎます。 アムロジピンは降圧剤の中でも効果が強く、心臓の負担を軽くすることができるお薬です。
利尿剤
利尿薬は体の余分な水分やナトリウムを尿で排泄することによって、心臓のうっ血を改善し、心不全の症状を軽くします。特に肺水腫の際に必ず使用する薬です。ラシックスやトラセミドなど様々な利尿剤がありますが、効果時間などそれぞれ異なります。
僧帽弁閉鎖不全症の寿命・予後
肺水腫を発症してしまい心不全と診断された後でも、適切な治療と頻繁なモニタリングを行えば、平均して12~18ヶ月ほど生存することができます。またある報告では、症状のない心臓病の犬で、無治療の場合の平均生存期間が766日(25.5カ月)であったのに対し、ベトメディン(ピモベンダン)投与群では1228日(40.9カ月)と報告されています。これは、ベトメディンにより生存期間が60%延長したことを意味します。要するに心臓病で長生きしたいのであれば、治療しないという選択肢はありません。
まとめ
犬の心臓病である僧帽弁閉鎖不全症はゆっくりと進行していく病気であるため、初期症状がほとんど出ることがなく早期発見が困難です。
早期発見するためには、8歳を超えたら2〜3ヶ月に1回は動物病院で聴診などの健康チェックをしてもらうことが重要です。また、毎日の食欲や元気などといった愛犬の状態をメモしておくことも早期発見に大きく役立ちます。
特に高齢になって咳が増えたり、散歩で疲れやすくなるようになったりなど日常生活で以前とは異なる変化があった場合には、なるべく早めに循環器外来を受診する事をオススメします。
僧帽弁閉鎖不全症は予防することはできませんが、飼い主様がいち早く愛犬の異常に気づいてあげ、動物病院に連れて行ってあげることにより早期発見できる病気です。
変な症状があったり、心臓病がないかどうか気になる場合は循環器外来を受診してみてはいかがでしょうか。
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